金融庁で開催された「金融審議会・暗号資産制度ワーキング・グループ(第2回)」(2025年9月2日)の議事録が公開されました。以下に、私の発言部分を引用します。
【岩下委員】 ありがとうございます。今日の新聞にも載っておりましたが、金商法で規制するというのが規定路線であるという前提でお話をさせていただきます。
ビットコインやイーサリアムといったよく知られた暗号資産を規制するのが金商法か資金決済法かで、そんなに変わるように私には見えません。もちろん規制の内容は違いますが、規制当局の実際の対応にはそれほど大きな差はないと私は考えています。ビットコインやイーサリアムの取引について、金商法に移行すれば当局が新たにできるようになることはあまりないと思いますので、これは「決めの問題」に過ぎないと思います。
ただ、今日のお話の中でもIEOの話が出ましたが、この領域には影響があるように思います。昔はICOと呼ばれていました。私は世界的にICOが急拡大した2017年頃から、ICOの様々な事例をかなり詳しく調べておりまして、ホワイトペーパーも随分たくさん読みました。その後もトレースしていますが、大体プロジェクトの七、八割は消えています。
今日たまたま、日本暗号資産ビジネス協会がお示しくださった資料2の5ページに、トークンを活用した企業の資金調達という資料があります。前回に引き続いて再び掲載されたもので、前回はあまり触れないでおこうと思いましたが、今回はさすがに触れなくてはいけないと思いました。今ここに、上からPLTから始まってJOCまで十幾つのトークンが並んでいるわけです。これらのトークンの現在の価格がどうなっているかご存じでしょうか。コモディティ価格と連動したものを除くと、公募価格を上回っているものは1個もありません。ひどいものはマイナス90%、95%と値下がりし、ほぼ無価値になっているのです。
さて、我々はこういうものをこれから金商法の世界に取り込もうと言うのです。業界が主要な事例であるとして挙げた全てが公募価格を下回っているものを、一般国民に資産形成に資する投資対象として勧めていくというのは、私から見ると、正気の沙汰とは思えません。もちろん、日本のマザーズやIPOの市場で公募価格を下回るということはざらにあることですが、中には儲かるものがあるから市場が成立するわけです。ところが、こちらは全滅なのです。
ただ、私が聞くところでは、暗号資産投資家の方々は別にそれを嫌がってはいないのだそうです。なぜかというと、売出しからセカンダリーマーケットに移る時点で、一時的に相場が上がるのです。上がったところで売り抜ければ、その人だけは大きく儲けることができる。こういう仕組みがあったからこそ、ICOは成立しました。IEOも同じです。これは舞台がDEXで行われるようになっても、同じことです。
ミームコインというものがありまして、事務局の資料の中でもあまりよろしくないものとして取り上げられています。しかし、実質的にみんな本質は同じなのです。事業が何かあって、株式に類似した資金調達だと言いますけれども、実際には価格を維持できる仕組みはないので、結局、一時的な値上がりのときに利益を狙うというのが本質です。
ただ、私はこれをあまり批判する気はありません。そういうものだと思っています。これは何に似ているかというと、2021年にゲームストップ事件がありましたが、あのときの議論と非常に似ているような気がします。この種の取引をやっている人たちは、ネット上のSNSなどで集まって、ネタで投資を行うわけです。そして、そのときのノリでわーっと資金が集まり、それに応じて相場が変動します。その変動した相場によって利益を抜ける人は抜く。しかしながら、本質はないですから、いずれ消えてしまいます。
通常の真面目な金融のほかに、そういう、分散金融という表現が正しいかどうかよく分かりませんが、不思議な投資家たちの世界が併存しているわけです。その世界の人たちを金商法の枠に取り込む規制を真面目に議論すること自体、私は違和感を感じます。昔から「ネタにマジレス」などという言葉がありますが、本人たちがネタでノリでやっていることに、しかつめらしい顔をして、これは投資家保護だ、これは適時開示だと言って、いかほどの意味があるのだろうかという疑問があります。
以前からお話をしていることですけれども、暗号資産の規制を考えるにはその本質をよく理解しないといけないと思います。我々は、暗号資産を金商法の規制に入れれば、それを飼い慣らすことができて、いずれは伝統的有価証券や伝統的金融のように制御可能になると錯覚しがちです。けれども、本質的にそれは無理だと私は思います。米国や欧州における規制の動きを見ても、ある程度目に見える範囲は規制しようとしていますが、DeFiやDEXといった世界は放置せざるを得ない、という割り切りがあるようです。我々も、できることは実はあまりないのだと思うのです。
その意味では、伝統的金融とは異なるものとして突き放す対応が必要なのではないかと思います。ましてや、規制当局が関与して、これは良いブロックチェーン、成熟したブロックチェーンで、安心・安全なので、皆さんこれに投資してください、といった方向に進むのは極めてリスクが高いので、やらないほうがいいと思います。
IEOは公営ギャンブルのように、全体としては損失が常態化する仕組みなのですが、一獲千金を狙って投資したいと思う人はいるでしょう。ただ、それはさらなる別の詐欺被害につながりやすい。真っ当な人たちがそういう投機に立ち入らないようにするための隔離対策を取るということが必要なのではないかと考えます。
議事録の全文は以下のリンクでご覧いただけます:
👉 金融庁サイト・金融審議会 暗号資産WG議事録(2025年9月2日開催)