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金融審議会・総会での発言

金融庁で開催された「金融審議会・総会(第56回)」(2026年2月3日)の議事録が公開されました。以下に、私の発言部分を引用します。

【岩下委員】 どうもありがとうございます。本日いただきました各ワーキング・グループの報告・提言は、地域金融であるとか、市場制度であるとか、開示制度といった、分野は異なりますけれども、いずれも我が国金融システムの信認の基盤をいかに強化していくかという、共通の課題に向き合った議論だったと理解しています。金融仲介機能、市場の公正性、情報の信頼性といった、基礎的な部分を着実に整備していくことが制度の土台であることを改めて確認する内容であったと受け止めておりまして、各報告書の整理について、基本的な方向に異論はございません。

ただ、私自身が参加させていただきました「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」で取り扱うテーマは、もちろんこの報告書も異論があるわけではございませんが、今の整理からすると、若干、趣を異にしているので、それについて少しだけ付言をさせていただきたいと思います。

本日御報告されている他の分野は、いずれも信認を制度的に支える仕組みをどのように強化するかというのを主題にしているのに対して、暗号資産というのは秘密鍵の保有のみを基盤として資産の支配権が決まり、取引相手とか仲介者の信用に依存しない――これを業界用語ではトラストレスと言うわけですが――そういう仕組みであるということを標榜して発展してきたものです。信認を制度で構築する従来の金融システムとは設計思想そのものが異なる存在です。もっとも、実際の暗号資産市場は必ずしもその理念どおりに機能しているわけではありません。本ワーキング・グループの審議を行った昨年夏から秋にかけて、ビットコインは史上最高値を更新し、暗号資産の市場規模も4兆ドルを超えて急速に拡大し、米国のGENIUS法も成立してステーブルコインに対する期待が高まって、その量も拡大するなど、社会的な期待や熱狂が大いに盛り上がった時期でした。しかし、足元では、暗号資産市場は相場が急落しておりまして、市場規模はピーク時と比べて40%ぐらい減少しているんですね。ステーブルコインの残高も、ずっと増え続けてきたんですが、ここにきて若干の減少に転じるなど、市場の雰囲気がかなり面変わりしている感じがします。こうした価格変動の中心は、先ほど報告書の御説明にもありましたとおり、グローバルな取引所やオンチェーンの市場といった、我が国から直接コントロールできないところで起こっていることです。また、相場が大きく下落したときにサーキットブレーカーのような安定装置であるとか、様々な制度的な支援もない中で、価格が連続的に下落していく様子を見ますと、この市場は我が国の制度の射程の外側でグローバルに動いているということを改めて実感するところです。

ステーブルコインについては、以前の金融審議会で議論が盛り上がった記憶がありますが、米国のGENIUS法、欧州のMiCA、日本の資金決済法など、各国の規制はできたわけですけど、それに適合したステーブルコインというのは実はまだほとんど発行されておりません。一方で、制度の外側で発行されているステーブルコインというのが、既に英国で発行される銀行券の発行総額に匹敵する規模にまで拡大しているという現実があります。結局のところ、発行体や取引基盤に対する不透明な信認といいますか、そういうものに依存しつつ、制度の外側で巨額の資金移動が行われているという実態がありますので、既存の信用秩序との間に少なからぬ緊張関係を生じさせており、それを軽視することはできないと考えます。

暗号資産市場は、従来、周辺的な市場と見られていましたが、近年は若干、状況は変化しています。米国のETFを経由した資金の流出入が双方の市場に影響を与えたり、暗号資産を大量保有する企業の株価がその価格変動に左右されたり、リスクの波及経路は確実に多様化してきています。暗号資産固有のボラティリティが規制の空白を経由して伝統的金融市場に波及しつつあるという現状は、冷静に見極めるべき課題だと考えています。こうした接続が拡大してしまうと、マネー・ロンダリング対策などの制度的な枠組みの実効性にも影響しますし、金融システム全体の信認を損ないかねないという懸念もあります。そうなりますと、暗号資産を国内規制に持ち込めば国内金融市場が安定するという過度な期待を持つことは残念ながらできないわけでありまして、制度の射程は本質的に限定的であるという事実を前提に、我が国として実効性の及ぶ範囲で着実に規制を及ぼしていくという現実的かつ慎重な姿勢が基本になると思います。この点で、本日、報告された「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の報告書は、いわゆる制度万能論に陥ることなく、価格形成や流動性の中心がグローバル市場にあるという構造的限界を踏まえた上で、実効性のある部分から着実に対応するという抑制的かつ現実的な整理を行ったものと受け止めており、妥当なものだと評価しています。今後も、こうした射程と限界を見誤らず、冷静に制度整備を進めていくことが重要だと考えています。

私からは、以上です。

議事録の全文は以下のリンクでご覧いただけます:
👉 金融庁サイト・金融審議会総会議事録(2026年2月3日開催)