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日銀マンのIT企業見聞録1 日立への出向を命ず

「2年間の日立製作所勤務を命ず」という辞令を受けて、日立の情報・通信システム社に着任したのは、昨年7月のことである。山口県下関市での支店長としての勤務も丸2年を迎えそろそろ異動になると予期してはいたが、民間企業への出向とは思ってもいなかった。日銀は、企業活動に関する生きた知見を得ることを目的に、民間企業と人事交流をしている。出向先は一般からの公募によって決定するのだが、若手ならともかく、支店長からIT企業に直接出向するのはかなりめずらしいことなのだ。

筆者は支店長に転出する前の15年間、日銀の金融研究所で、暗号アルゴリズムや生体認証技術の安全性評価など、金融分野で利用される情報セキュリティ技術を研究していた。このため、てっきり今回も、出向先は研究所で、論文を書く仕事を割り当てられるのかと思った。しかし、配属された職場は、経営戦略室という部署だった。筆者は、社会人生活28年目にして初めて、営利企業のビジネスの現場で働くことになったのだ。

それにしても、なぜ日立なのかと不思議に思われるかもしれない。一般の人々には、家電製品のメーカーという印象が強いだろう。電力や鉄道などのインフラ構築の担い手でもある。日立は非常に多くの事業を展開している会社だが、現在、売上高や利益のシェアがいちばん大きいのは、実は情報・通信システム部門なのだ。そのなかでも、最大の顧客は金融業界である。日立にとって、金融業界向けのシステム開発は、まさに「一丁目一番地」のビジネスなのだ。

そんなIT企業の社内における経験から、金融業界に有用な情報が引き出せるのではないかというのが、本連載を手がけた動機である。たとえば、出向先の社内向け情報システムを実際に業務で使用していると、その高い機能度や充実した情報セキュリティ対策に感銘を受けることが少なくない。企業グループ内のバラエティに富んだ社員がコラボレーションする仕組みも、金融業界ではなかなかみられないものだ。

金融機関にとっても、IT投資戦略が経営上の最重要課題となって久しい。かつて筆者も、日銀のシステム開発の現場でIT企業の技術者とともに働いた経験があるのだが、発注者と受注者という立場では、なかなか本音で議論することはむずかしかった。両業界の間には、いまだに大きな意識の隔たりがある。出向先に迷惑をかけない範囲内で、IT企業の見聞録を金融業界の方々に伝えることができれば、その隔たりを縮めることができるのではないかと考えたのだ。

本連載では、出向先で実際に経験した情報技術関連の話題を中心に、金融業界の方々に参考になりそうなテーマを取り上げていきたいと思う。

(週刊金融財政事情2012.2.27号掲載)

―PDF版は、こちらをご覧下さい。