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日銀マンのIT企業見聞録3 ネットで顔がみえない業界

携帯電話のアドレス帳は大切なビジネスツールだ。電話番号以外に、所属組織名やメールアドレスを登録している。顔写真が登録できればなおよい。着信時に、液晶画面に写真が表示されるからだ。とはいえ、仕事上の知人の顔を撮影するわけにもいかず、そこは空欄が多かった。

あるとき、知人の名前をネットの検索にかけたところ、その人の顔写真をみつけた。そこで、アドレス帳に登録されていた名前を端から検索にかけてみた。当時筆者は日銀で情報技術研究を担当していたから、金融業界と情報通信業界の両方に知人がいた。案の定、情報通信業界の知人は全員の顔写真が手に入り、アドレス帳に登録することができたが、金融業界の知人の顔写真はほとんどみつけることができなかった。

そんな経験を通して実感したのは、金融業界は「ネットで顔がみえない業界」だということだ。実際、各種SNSで金融業界の人々が発言する量は、その潜在能力に比べてとても少ないと思う。

ジェフ・ジャービス著「パブリック」は、SNSを通じて個人や企業が情報を公開する時代が到来したことを宣言する本だ。その表現を借りるならば、金融業界は「パブリック」でない業界といえるだろう。

「時代に適応するためにSNSで発言しましょう」的な話をするつもりはない。金融業界において、SNSで名前と身分を明かして発言するのに抵抗を感じる人が多いことは、よく理解できる。私自身、基本的に閲覧するだけで発言はしない。

SNSでは、何かを感じたらすぐに発言でき、それがすぐに世界中に広まる。ふとした拍子に発言が注目されてしまえば、もう隠せない。問題発言による「炎上」や機密漏洩も日常茶飯事だ。リスクを避ける性向の強い金融業界の人々が、そうしたリスクをとろうとしないのは当然だ。金融機関の職員が「パブリック」になることを忌避するのは、習い性のようなものなのだ。

とはいえ、若い層を中心に個人が「パブリック」になるなかで、金融機関などの企業サイドがそうではないという状況は、長期的には安定ではない。SNSの情報発信力はますます高まっているから、情報格差が生まれてしまう。たとえば、SNS上のクレームの放置が危険なことになるのは、そう遠い将来ではない。

そこで提案したいのは「発言せずに、とりあえず読んでみる」というアプローチだ。たとえば、SNSのアカウントをとり、スマホにアプリをインストールしておくだけでいい。それだけなら炎上することはないのだから。そして、検索キーワードに自分の会社の名前や仕事上のテーマを登録しておけば、それを論じる人々の意見が、リアルタイムで増えていくのを感じられるはずだ。発言するリスクを避ける性向の強い人こそ、アンテナを高く張っておくことが大切なのではないか。

(週刊金融財政事情2012.3.12号掲載)

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