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規制業種とイノベーション

岩瀬大輔が語るイノベーションを阻害するもの 「金融業界はATM以降、何ひとつイノベーションが生まれていない」(日刊工業新聞、2018/01/08)

元々規制業種というのはそういうものです。だから自由化とか民営化が改革推進のツールになるのですね。実際、電電公社からNTTに変わり、新規参入が進んだ結果、競争から様々なイノベーションが起き、携帯やスマホの進化につながりました。

とはいえ、金融を全くの自由競争にしてしまっていいのか、というと、そうではないでしょう。特に、銀行は、預金を受け入れて貸出をすることにより、信用創造ができるので、様々な事故・事件を起こしやすい業種です。銀行制度の黎明期には様々なトラブルが発生し、預金者が財産を失う事件が多発しました。このため、金融機関への規制が行われるようになったのです。そうまでしても、様々な金融危機が発生し、金融機関が破綻したり金融システムが機能不全に陥ることがありました。しかし、これまでのところ、かろうじて金融システムの健全性は維持され、預金者が預金を失うとか、膨大な税金が浪費されるという事態になってはいません。

好対照なのは中国です。中国はキャッシュレス化によって金融のイノベーションが進んだことが知られています。それを牽引したのは、アリペイやテンセントといった新規参入企業です。他方、中国の金融分野への新規参入企業において、多くの不正が行われ、個人が財産を失う事件が多発したのも、また事実なのです。

イノベーションを取るか、預金者保護のリスクを下げることを取るか、というトレードオフは、各国国民の判断です。もちろん、両方取れればそれに越したことはありませんが、実際には難しいようです。このため、各国当局は、徐々に瀬踏みをしながら、あるべき規制の水準と手法を探っています。日本でも、ネットバンクができたり、フィンテックがブームになったりするのは、そうした水準調整の結果なのです。

こうした過去の経緯や各国の実情を踏まえて、かつ、世の中のイノベーションの進展を踏まえつつ、現在でも規制の微調整は続いています。「規制が悪い」「銀行が悪い」と責めるのは簡単ですが、かといって事件や事故の被害者は、できるだけ出したくないものです。できれば、現在の安全で安定した金融の仕組みを維持しながら、目覚ましいイノベーションも生み出せるような、絶妙な水準と手法とに規制を調整し、金融機関の意識も変えることができればよいと思っています。