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もうビットコインを仮想通貨と呼ぶには当たらない

タイトルに掲げた、金融審議会・総会での私の発言が、ニュースに取り上げられているようです。

3月4日に開催された金融審議会・総会の議事録が、このほど公開されました。金融審議会・総会は公開で、希望すれば傍聴できます。この会合にも、かなり多い傍聴者が参加されていました。今回話題になった部分で私が何と発言したかを、ちょっと長いですが、議事録から転載してみます。

(岩下) もう一つの仮想通貨というか、今度は暗号資産になるわけですが、この仮想通貨が暗号資産になり、通貨という単語が抜けるということについては、私もまだ慣れないのですけれども、努めて暗号資産という言葉を使おうとしております。ただ、もともとのことを考えていただきますと、2013年のキプロス危機のときにビットコインがまさに通貨のように使われたことがある意味でパンドラの箱を開けたような、その後のビットコインの大きなうねりをつくったのだと私は記憶しております。
 その意味では、ビットコインは、単に、何だかよくわからないけれども値上がりするもので、資産なのだということではなくて、どうもここには何か通貨として使われているという1つのイリュージョンがあって、結果として値上がりしたという、そういう実態がどうもあるような気がするのですね。
 それは多分、ビットコインの価格が比較的安定していた時期には特に、マネーロンダリングなどのイリーガルなことも含めて、国際的な取引ができていたということだと思うのですけれども、確かにビットコインを使えば、国境をまたいでも、違う法律の制度・立てつけであっても、資金決済のようなものができたというのが、それゆえにイリーガルに使われてしまったのだとも思うのですが、それが世の中の流れにつながったような気がいたします。
 ビットコインが一旦国境の壁を乗り越えたかに見えましたが、結局その後、ビットコインは乱高下してしまって、結局通貨ではなくなったのでもう使えないわけです。もうビットコインを仮想通貨と呼ぶには当たらないと思いますが、では、それに当たるようなものが今後出てこないかというと、決してそんなことはないと思うのですね。そのときに、国境をまたいだ形での新しい仕組みのようなものが出てくるのではないか、出てきたときにどうするべきなのかということも、これもまたこの仮想通貨を巡る一騒動が我々に与えてくれた、非常にいい、物を考えるチャンスだったと思いますし、今回、金融庁がおとりになられた様々な努力によってこういうことがいろいろわかってきて、この報告書ができたということは、非常に望ましいことだったと思います。

ここで私は、ビットコインの歴史について簡単に述べています。かつては仮想通貨と呼ばれ、まるで通貨のようだと思われた時期があったけれど、今では通貨とは呼べなくなったという説明です。「まるで通貨のようだと思われた時期」とは、例えば、Silk Road事件で取引の対価として使われた2012年頃の状況を意識しています。そして、2013年3月のキプロス危機を境に価格が乱高下し、今では仮想「通貨」とは呼べなくなったと説明しているわけです。

そんなに特別なことを言った覚えはないのですが、この中の発言が引用され、いくつもの市況ニュースのメディアに転載されています。

日本語のほか、中国語でも、「京都大学教授:因价格波动较大,现阶段的比特币不应被称为虚拟货币」という記事が複数掲載されているようです。

まあ、市況情報というのは共有されるものですから、それ自体は構わないのですが、不思議なのは、「仮想『通貨』とは呼べない」という指摘には何らニュース性がないのに、なぜか注目されているという点です。

そもそも「仮想通貨は通貨の特徴を備えていないので、仮想『通貨』という呼び方をやめるべきだ」という議論は、昨年のG20サミットの頃から国際会議で広く言われ始めたことです。このため、国際的には、virtual currency とか crypto-currency とは呼ばないで、crypto-asset と呼ぶという流れができました。それが国際的に定着してくる中で、昨年12月に、仮想通貨交換業等に関する研究会の報告書において、日本における法律上の名称の変更が提案され、それを受けて名称を変更する改正法案が閣議決定されたのが、3月15日のことです。国際的には1年以上前、国内でも数か月前から言われていることですから、特に情報として新しい訳ではなかったと思います。

仮想通貨という名称に「ときめき」を覚える人も居るのだと思いますが、これは仕方のないことだと思います。 仮想通貨交換業等に関する研究会の報告書には、変更するべきという趣旨が以下のように説明されています。

..最近では、国際的な議論の場において、“crypto-asset”(「暗号資産」)との表現が用いられつつある。また、現行の資金決済法において、仮想 通貨交換業者に対して、法定通貨との誤認防止のための顧客への説明義務を課しているが、なお「仮想通貨」の呼称は誤解を生みやすい、との指摘もある。
こうした国際的な動向等を踏まえれば、法令上、「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが考えられる。

こうした議論を経て決定した名称変更ですから、私自身も、「世界の潮流に合わせるためには、法定の名称を変更するというコストを掛けることもやむを得ない」という気持ちで発言しています。