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FacebookCoinと国境の壁

米国発のFacebookCoinの話題が盛り上がっている。

FB、仮想通貨参入を準備 送金や買い物での利用検討
(共同ニュース、2019/5/3 11:37)

このニュースは繰り返し出て来るけど、「電子商取引で使えるドルペッグした暗号資産(ステーブルコイン)」を越境取引で使えるようにするという構想は、少なくとも日本の規制との関係では実現可能性が乏しいと思う。

そもそも、普通のFBユーザーが、ブロックチェーンのトランザクションを起こす為のデジタル署名を生成するのは手間がかかるし、道具立ても大袈裟なものになる。FBを交換業者としてコインを預けるのであれば、それはドル建てのプリペイドカードと同じで、各国の金融取引規制がかかる。少額の電子商取引の決済手段としては、どちらも引き合わない。既にクレジットカードやデビットカードがある世界にそんなものを持ち込んでも、利用者は限られるだろう。

逆に言えば、現時点でクレジットカードのような決済手段を持たず、銀行取引もできないような環境に置かれた人々には有用かもしれない。例えば、ベネズエラの難民がFBのアカウントとともになにがしかのドル資産を持って出国出来れば、今よりも悲惨さをかなり減じることができるだろう。

とはいえ、多くの国はそのような特殊な状況にはないし、FBも規制当局との争いは避けたいだろうから、普通の国においては、ブロックチェーンを使っているかどうかに関わらず、例えば AmazonやGoogle のプリペイドカードのような形で提供されるのではないか。だとすれば、制度としては、あまり大きなショックは生じないだろう。

結局、「ブロックチェーンによる仮想通貨」と表現するから何やら凄いことのように見えるだけのように思われる。FaceBookのようなSNSが、内部に資金決済の仕組みを持つことは珍しいことではない。例えば、AlipayやWeChatPayがそうだし、日本にもLINE Payがある。AmazonやGoogleも、電子商取引やアプリの課金に使うプリペイドカードを既に発行している。

これらの前例は全て、各国の決済法制に基づいて発行され、消費者保護やマネロン対策が図られている。AmazonやGoogleのサービスも、日本国内なら日本円ベースだし、資金決済法の規制に基づいてサービスが提供されている。

FacebookCoinがどのようなサービスとなるのかはまだ分からない。米国内だけなのか、国際展開するのか、その場合、各国の規制とどう折り合いをつけるのか、これからの議論だろう。ただし、暗号資産だから、ステーブルコインだから、特別なことができるとは考えない方が良さそうだ。

もしFacebookのユーザー間で自由に送金ができる仕組みができて、それが国際的にも可能になるのだとすれば、当然、犯罪や脱税やテロ資金調達を目的としたマネロンに対する対策が必要になる。FaceBookを使えば国際送金し放題となったら、それはそれで便利だろうが、犯罪や脱税に使う側にとっても便利になる。現在の国際送金で要請されているマネロン対策と同等以上のものがなければ、規制の尻抜けになってしまうから、認められることはないだろう。

インターネットで世界中が繋がったことは素晴らしいことだが、ことお金のやり取りに関しては、国境の壁が存在する。一定の規制に従うならば、国際的な送金ができないわけではないが、コンプライアンスを維持するにはお金がかかるので、ある程度のコストは掛かってしまう。 現在の各国の国家の枠組みを前提に、犯罪防止や消費者保護といった目的を考えれば、それは仕方のないことだろう。