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高等教育の無償化に関するあるツイートを巡って

約5万もの「いいね」が付き、3.5万回もリツイートされたこのツイート、実は事実誤認なんです。そのことは、投稿から20時間後のツイートでご本人も認めているのですが、それでも、「ただまあ稼げないクズ認定されたことには変わりはない」と開き直っています。これは、あまり褒められた態度ではないと私は思います。

ことの発端は、来年から、 大学、短大、高専、専門学校生等を対象とした授業料等減免の新制度が導入されるとの情報でした。文部科学省からは、次のような資料が公開されています。

上記リンク先資料における昼間部の減免・給付額の表

確かに、ここには大学院の欄はありません。それを疑問に思った誰かが、文部科学省に「大学院生は支援対象になりますか」と尋ねたところ、文部科学省は「対象にならない」と回答し、それがQ&Aに載ったのです。これを見て、「大学院生への授業料支援が廃止される」と勘違いした人が、問題のツイートをした訳です。しかし、実際には大学院生を対象とした現行制度は残りますから、この発言は事実誤認なのです。

この間のやり取りには、幾つかの問題が含まれています。そもそもの前提として、既に大学生にも大学院生にも、「 経済的な理由によって授業料の納付が困難で、かつ、学業優秀と認められる者 」に対する 授業料免除制度が存在するのですが、これが正確には理解されていないようです。その基準は、例えば国立大学の大学生、大学院生等については、「授業料免除選考基準の運用について」という通達が出ています。ここに成績基準と総所得金額基準が詳しく書かれていますが、大学生で授業料全額免除だと所得基準がかなり抑えられている一方、大学院生であればそこまででもないなど、どちらかというと高学歴側が利用しやすいルールになっています。

これに対して、新しい授業料等減免の新制度は、義務教育の無償化、高校授業料の無償化の流れの延長にあるものといえます。平成29年の統計では、18歳人口で大学、短大、高専、専門学校に通う人の割合が 8割を超えています。そんな中で、現行制度の成績基準を撤廃し、対象を住民税非課税世帯およびそれに準じる世帯(支給額は2/3または1/3となる)にまで拡大し、新たに給付型奨学金を支給するなど、より拡充された新制度が来年から導入されることになったのです。

ここで、新制度は大学院生を対象外としていますが、現行制度の大学院生を対象とした部分は残るので、大学院生にとって不利益な制度変更が行われた訳ではありません。大学院生も新制度の対象となればより良かったとは思います。そうならなかった理由について、上記Q&Aでは、①大学院進学者が18歳人口の5.5%にとどまること、②短期大学や2年制の専門学校を卒業して稼得能力がある者とのバランス、を挙げています。このQ&Aの説明も、誤解を招きやすかったように思います。政策は常にコストと効果のバランス、利益を享受できる者とできない者との公平性などを考慮して決められるものです。とはいえ、今回の判断は、大学院で学ぶ者と、20歳以上で就労する者とのバランスにのみ配慮して決められた訳ではありません。

新制度導入のポイントは、「経済的理由から大学等への進学を断念する人をなくそう」というものです。 それは、同世代の8割が進学するのに、経済的な理由で進学できない人に着目した政策といえます。これに対して、大学院への進学については、①進学率が大学よりも遥かに低いこと、②現行制度の所得基準が相対的に利用しやすいこと、③成績基準を残すことに一定の合理性があることなどから、新制度の適用がなくても、現行制度で問題がないと判断されたと考えられます。

上記のツイートをされた方は、最初に事実誤認していた時には、「国からはただの稼げないクズだって思われてた」と書き、事実誤認を認めた後も、「稼げないクズ認定されたことには変わりはない」と再び書いています。SNSにありがちなこととはいえ、過激な表現を使ったために、引っ込みがつかなくなってしまったように見えます。過激な言葉が生産的でないのは、こういう事例からも明らかだと思います。

国(この場合、具体的には、文部省の官僚)は、大学院生を「稼げないクズ」と思っている訳ではありません。私は、できるだけ多くの大学院生に、しっかり大学院で研究してもらい、(文系であれ理系であれ)将来のわが国のイノベーションを担ってほしいと思っています。