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全大阪府民にPCR検査を実施すべきでない理由

スポーツ新聞に載ったお笑い芸人の記事にコメントするのもどうかと思うのですが、この方、割と深刻な勘違いをされていると思いますので、私の考えを書いておきます。

もし、この方がコメントしたとおりに、全大阪府民にPCR検査を実施して、何%かの陽性率が出たとしても、その多くは偽陽性なのです。「真の陽性率」という言葉が大きな誤解ですし、PCR検査だけでは「真のコロナ感染率」は分からないのです。

そもそも、日本の感染者数は1万5千人程度なので、8千人の中に1人しか感染者は居ません。でも、症状のない府民全員にPCR検査をすると、ある程度の比率で陽性が出てしまいます。だからといって、その陽性の人がみな、コロナ感染者かというと、そうではないんですよ。

だからこそ、WHOも「症状のない者へのPCR検査は勧めない」と何度もコメントしています。日本も、事前の医師によるスクリーニングを徹底しています。コロナ感染しているかどうかを決めるのはお医者様で、検査ではないんですね。PCR検査が絶対正確で間違わないなら、話は簡単です。しかし、どんな検査も偽陰性と偽陽性が出てしまうものなのです。

某国は徹底したPCR検査で感染を抑え込んだ、という話をよく聞きますが、実はそれは程度の差でしかありません。バチカン市国のような人口の少ない国でない限り、どんな国でも全国民を検査はしていません。

もしある国が莫大なPCR検査能力を持っていて、全国民を検査し、その検査結果だけを頼りに、陽性の人全員を隔離したとしましょう。その隔離された人の多くは偽陽性で、実際は感染者ではないので、深刻な人権問題となるでしょう。また、偽陰性で野に放たれた感染者が存在するので、その人から感染が広がってしまいます(日本で感染者の退院基準が2回の陰性結果を得ることとされているのは、このためです)。

では、カリフォルニア州で部分的に始まった「希望者全員のPCR検査」をどう考えればいいのでしょうか。これはPCR検査能力の余裕がどの程度あるかと、検査結果の使い方次第です。十分に検査能力の余裕があり、検査結果の陽性・陰性から直ちに感染の有無と判断しない前提であれば、陰性の結果を得た人は安心できるでしょうし、隠れた感染者を発見できるメリットが得られるかもしれません。その代わり、検査結果が陽性だった人は医師の診断を求めて病院を訪ねるでしょうから、もし全ての市民に強制的に検査を実施したら、感染症の診断を行う医療資源を相当浪費するはずです。あくまでも、一部地域で試験的に、かつ希望者のみを対象として実施されているのは、そのためでしょう。だから、全大阪府民にPCR検査を実施すべきではないんですね。

日本にはPCR検査能力の余裕はありませんし、感染症診断の医療資源の余裕もないので、PCR検査を本来必要としない人に提供することは考えられません。この記事に載っている発言は、もちろん荒唐無稽な話です。

私が気になるのは、「とにかくPCR検査を増やせばいいのだ」という割とよく聞く意見が、「PCR検査は絶対正確に感染の有無を診断できる」という誤った認識から来ているのではないかということです。

もしも、日本のPCR検査能力がもっと高かったならば、医師によるスクリーニングをそこまで厳しくする必要はなかったでしょうから、感染の検知と隔離をもう少しだけ徹底できたかもしれません。でも、それはそんなに大きな違いではなかっただろうと思います。国際比較をしてみれば、日本は感染者数と死亡者数を人口比で格段に低い水準に押さえ込んでいるのですから、上手に対応できたと評価すべきです。

コロナによる自粛で経済へのダメージも大きいですが、PCR検査能力が多少高いだけでは、多分それは回避できなかったでしょう。政府がもっと強権的で、検査の実施や隔離を徹底できていれば、感染をより早期に収束させることができたかもしれません。しかし、そのような国になれば失うものもあります。できれば、我々が享受している自由やプライバシー保護を失うことなく、感染症対策の実効性だけを高めるような方策を考えていきたいものです。