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規制改革推進会議 デジタルガバメント ワーキング・グループ

私は、規制改革推進会議 デジタルガバメント ワーキング・グループの座長代理を務めています。その最近の議事録が公開されましたので、特に第10回(令和2年6月5日)第11回(令和2年6月18日)についてご紹介したいと思います。どちらも、書面・押印廃止に向けた担当府省からのヒアリングです。

第10回は、内閣府の子ども・子育て本部審議官をお呼びして、保育園等の入園申込みに必要な就労証明書について、押印不要化、デジタル化ができないか、という議論を行いました。就労証明書は各自治体が申請者に添付を求めているものですが、法律にはその書式や押印については特に何の定めもない中で、各自治体が会社の代表者印等の押印を求めているため、「コロナ禍の中でもハンコを押しに出勤しなければならない問題」の元凶の一つとされている案件です。

内閣府によれば、書類への押印を継続するよう求めているのは各自治体の方だというのですが、特に印鑑証明書と照合している訳ではありませんから、本当にその会社のハンコなのか、自治体職員は知りようがありません。ハンコが押してあれば本物だと思う、という古い発想で維持されているルールとしか思えません。

就労証明書の電子申請化という仕組みもあるのですが、この内閣府の説明図に明記されているように、企業の担当者は就労証明書を電子的に作成の上、申請者に「打出、押印、交付」することになっています。結局は書面と押印は必須なので、コロナで問題となった、ハンコのための出勤の対策になっていません。色々とある保活のためのサイトを覗いてみても、「マイナポータルで就労証明書を作成しましょう」とは書かれていないので、実際には使われない電子申請のひとつなのでしょう。これでは電子申請化しているとは言えないですね。

今回の会議では、この書面、押印に代えて、企業が作成した就労証明書のPDFファイルを自治体に直接、電子メールに添付して送れないか、その場合に自治体側で効率的に紐づけを行うにはどうすればいいか、ということを議論しています。議論をしていて、隔靴掻痒の感が強かったです。現在の自治体の実務は、対面、書面、押印を基本としていて、そこから積極的に変化して効率化しようとか、コロナ禍に対応して接触機会を減らすために従来の慣行を見直そうという意思が感じられません。電子化なんて、どこか遠くの世界のように感じているように思いました。検討してもらうことを約束していただきましたが、まだまだ時間がかかりそうです。

第11回は、厚生労働省の労働基準局安全衛生部長をお呼びして、労働基準法における就業規則、36協定等の届出について、押印不要化、デジタル化ができないか、という議論を行いました。これらの届出もまた、法律で押印が義務付けられている訳でもないにもかかわらず、厚労省の手引き(13-14ページ)に「押印も必要です」と明記されており、これまた「コロナ禍の中でもハンコを押しに出勤しなければならない問題」の元凶の一つとされている案件です。

この分野でも、電子申請が導入されているのですが、証明書による電子署名を必須としており、中小企業まで含めると、なかなか普及は難しいようです。そもそも法令上、記名押印が必須とはなっていないのに、電子署名が必要な書類なのかも疑問です。

今回の会議では、およそ従業員を雇用する全ての法人企業が関与することになるこの届出について、そもそも押印が必要かを巡って、かなり厳しい議論が交わされました。厚労省側は、「労使双方の意見が反映された上で締結、作成された部分を客観的に確認すること」を目的に記名押印を求めていること、2年前の審議会で押印が必要とされたこと、労働者代表はむしろ押印を増やすべきだと主張していることなどから、押印廃止は難しいと主張しました。

これに対し、WGメンバーからは、コロナ禍の発生により2年前の議論はリセットするべきであること、事業所代表者の押印に「正当に締結、作成されたこと」を確認する効力はないこと、そもそも届出は形式的に適法かをチェックするものであり、中身に違法性があれば別途監督権限を行使すべきであること、などが指摘されました。しかし、ここでも厚労省側にはハンコに対する信仰とでもいうべき書面、押印主義の信念が根強く、容易には覆らない情勢であるように感じられました。

こうした審議内容が赤裸々に公開されることは、とてもいいことだと思います。行政手続きには、法的根拠のない押印の要請がまだまだあって、それが民間企業の事務の効率化を妨げています。コロナの第二波が懸念される中で、人々に行動変容を求めるのであれば、政府自体が襟を正していくことが必要です。

この二つの案件の議論に参加して、押印廃止の問題というのは、単なる事務手続きの問題というよりも、特に公的部門で届出を受理する側の心の問題であるように感じました。ハンコさえ押してあれば、それを受理しても責任を問われることはない、という事なかれ主義が、その根底にはあるのでしょう。ハンコさえ押してあれば真正で正式だという発想は、現代においては通用しません。ハンコの偽造は容易ですし、仮に不正な書類を偽造した場合、ハンコの有無にかかわらず犯罪となります。どちらにしても、ハンコという形式ではなく実質が重要なはずです。

現代においては、書面、押印から電子データに移行することが求められています。そこでは、全ての政府への申請事務に電子署名を義務付ける必要はないでしょう。コロナ禍に見舞われた現在、重いシステムを全ての法人に求めることはもともと無理です。むしろ、PDFファイルを電子メールに添付して送付する程度の電子化で十分なはずです。

そのうえで、就業証明書にしても、36協定の届出書にしても、その実質を評価し、もし問題があれば適法に対処することは、ハンコや電子署名の有無とは別に、担当部署の責任であるはずです。