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日本金融学会の秋季大会パネルに登壇

10月21日に、日本金融学会の秋季大会(名古屋市立大学)で「仮想通貨の意義と課題」について議論をさせていただく予定です。プログラムが日本金融学会のサイトに公開されましたので、関連する部分を以下に掲げます。私は、「サトシが描いた世界から逸脱したビットコインの行方」というタイトルで発表させていただく予定です。

2018年度
日本金融学会秋季大会
研究報告概要
期 日 2018年10月20日(土)・10月21日(日)
会 場 名古屋市立大学 滝子キャンパス

10 月21 日(日)
13.共通論題 <13:00~15:30>
A 会場 3 号館(経済学部棟)1 階101 教室
テ ー マ:仮想通貨の意義と課題
座長 東京大学 宮 尾 龍 蔵 氏
(1) サトシが描いた世界から逸脱したビットコインの行方
報告者 京都大学 岩 下 直 行 氏
(2) 仮想通貨の経済学的意味と今後の課題
報告者 東京大学 柳 川 範 之 氏
(3) 仮想通貨の将来的な活用可能性と実務面における課題
報告者 マネーフォワードフィナンシャル株式会社 神 田 潤 一 氏
(4) 仮想通貨交換業者に対する監督上の対応と課題
報告者 金融庁 水 口 純 氏

私の発表部分の要旨です。全員分は、上記サイトの「報告要旨」に掲載されています。仮想通貨のセッションは一番最後にあります。

「サトシが描いた世界から逸脱したビットコインの行方」
京都大学 岩下直行

<報告要旨>
2008年にサトシ・ナカモトを名乗る人物が新しい電子現金システム「ビットコイン」を提案する論文を発表した。この新しい技術は、安全性が確保されないインターネット上で、現金に似た価値のある情報を移転、保有できるようにしたという意味で、革命的であった。

インターネット上のデジタルデータを現金のように送金や支払手段に利用する「電子現金」構想は、1980 年代から暗号学の一分野として研究されてきた。そうした研究を源流として、各国で実用化が相次ぎ、例えばわが国では交通系電子マネーが広く普及するに至った。

しかし、そうした実用的な電子決済手段は、多くは発行体の負債として規制され、プライバシーの保護も十分ではない。それは、サトシにとっては理想からほど遠いものであったのだろう。彼は、2009 年に自らビットコインのシステムを開発してネット上で公開し、第三者が仲介しなくても、匿名での取引が可能な電子的な支払い手段を作り上げた。

ビットコインのシステムを支えているのは、その趣旨に賛同した個人が供出する計算機資源であり、「ビットコイン株式会社」のような組織は存在しない。明確な契約も、法人化の仕組みもなく、コード(コンピュータのプログラム)だけが存在する。そのコードもまた、自主的に集まった技術者が、相互にレビューしつつ、頻繁に書き換えている。国境や法律に縛られることなく送金や支払いができるビットコインは、政府の介入を嫌う人々から熱狂的に受け入れられた。サトシが描いてみせたのは、そんな世界であった。

しかし、開発当初の牧歌的な時代はすぐ過ぎ去る。2013 年頃になると、ビットコインの値上がりを求めて、多くの個人投資家が参入してきた。仮想通貨取引所は、法定通貨と仮想通貨を交換するとともに、その管理ができない個人に代わって仮想通貨を預かるサービスを提供するようになる。これが、サトシが想定していた世界からの逸脱の始まりだった。

ビットコインをマイニングする専用のマシンが開発され、マイニングを専門業者が担うようになったのも、サトシが想定していなかったことだ。今や、マイニングは大量の電力を消費し、地球環境問題に無視できない影響を与えていることが指摘されるようになった。

ビットコイン技術が最も輝いて見えたのは、2012 年頃であった。その後、相場は上昇したものの、電子現金としての利用はすっかり影を潜め、投機対象に変質してしまった。ビットコインは、今後も、当初デザインされた用途に使われるようになるとは考えにくい。

ビットコインや仮想通貨の将来を考えるうえでは、それらが投機商品として売買されている実態は受容し、不正利用(ML/TF)の禁止や消費者保護の視点からの規制を課しつつ、冷静に内容の理解を進めていくことが必要であろう。こうした観点からは、今後は、犯罪被害防止のための官民における情報共有や、消費者教育が重要になるのではないだろうか。