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第1回デジタル・分散型金融研究会

2021年7月26日に開催された「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第1回)の議事録が公開されていました。ちょっと遅れましたが、いつもどおり、自分の発言のところだけ、備忘録的に転載しておきます。割と時間に余裕のある研究会だったので、神田秀樹座長に促されるまま、3回も発言してしまいました。


【岩下発言】(1回目)

岩下でございます。研究会の最初ということで、この研究会で研究を進めていくべき事項について私なりの考えを述べさせて頂きます。

また、今2人から大変貴重なお話を頂きました。私もこの分野は随分長くやっておりますので、2人のおっしゃっていることはどちらもよく分かる立場におります。すなわち伝統的な耐タンパー性を持ったICカードにデータを格納して、それを決済手段に使うという議論もありますし、あるいは、ブロックチェーンという言葉は実は私はあんまり好きではなくて、古くは、デビッド・チャウムに始まる、アノニマス・イーキャッシュから、サトシ・ナカモトのビットコインを経て、現在に至る幾つかの系譜というのも、これも技術、学問さらには実際のビジネスとして注目しているところであります。

こういったものについて私が考えるところですけれども、これを今回の研究会のタイトルが、デジタル・分散型金融、すなわちデジタル金融及び分散型金融という、そういうくくりになっているのかと思います。デジタル金融とは何かとよく聞かれるんですけれども、定義が難しい。金融とはもともとデジタルではないかと。銀行の預金というのは基本的に、ほとんど全てが銀行コンピューターのデータベースになっていますし、中央銀行の負債も現在は、金額的に言えば、過半のものがデジタル的な形で保有されているというのが実態でありますので。そういう意味では今さらCBDCとか、そういう議論を改めてする必要は本当にあるんだろうかというのは、私自身もいろいろと悩みながら、この分野を研究しているつもりであります。

この視点から、私が今回の議論について思うのは、一つはビットコインが世の中を変えてしまって、人々のこういうものに対する認識を変えてしまったというところがどうも一つあるんですね。それは確かにデビッド・チャウム以来のプライバシーに関する意識というものを改めて人々に認識させることになったという意味で、あるいは少なくともデビッド・チャウムが志して、なかなか実現しなかったプライバシーの保った形での匿名送金みたいなものを、極めて大規模な形で実現してしまったビットコインというアプリケーションができてしまった。それの意味することが、かつて議論されていたような権力や政府からの介入を排除して個人の自由を守るためのプライバシー保護みたいな議論から、どうもそういういいことばかりではなくて、いろいろと悪いことがあると。先ほど指摘のあったAML的な意味での悪いこともあるということが改めて明らかになってしまったということが一つ。

それからもう一つは、これをやるプロセスで、ブロックチェーンと一般に言われる技術というのが、全てがそういう同じ特徴を持っているとは思いませんけれども、中央がない仕組、分散型であるという、そういうことを言っているというのは、これまで様々な金融規制であるとか金融制度というものが、金融機関という担い手を常に意識しながらそれを規制することによって規制をしてきたという歴史的経緯から考えると、大変不思議な現象ではあるわけですね。規制するべき主体が存在しないのですから。

日本の場合、暗号資産交換業者を交換業者として規制していますけれども、暗号資産そのものが規制できているかというと、それは当然、規制するべき相手がないので規制できないわけですが、そういうものを果たして金融というカテゴリーにくくってよいのだろうかと。あるいはそれらのものは、本当に将来のある金融だろうかというところについて、伝統的な金融と並び称する形で分散型の金融というものが本当に存在し得るのかというのは、今のビットコインをめぐる様々な世の中の喧騒から一旦離れて、冷静に考えてみる必要があると考えます。

そういう意味では、純粋に技術的な話というよりは、例えばプライバシーに関する社会思想的な話であるとか、あるいはこれまでの金融制度とのつながりという意味での規制的な観点であるとか、そういう視点等も含めて、この分野というのは議論していくことが必要ではないかと考える次第です。

私から以上です。ありがとうございました。


【岩下発言】(2回目)

今ほど松尾先生から若干触れて頂きましたが、先ほど神作先生から頂いた、オフラインでの、例えばICカード、あるいはスマホはもともとオンライン前提ですけど、電波が通じないところでどうするかという話については、長年の課題ではありました。また再び日が当たっているというところで、一体我々はどういう環境を前提としてアプリケーションをつくっていけばいいのかというのは、なかなか難しいところだと思います。

25年前に先ほど松尾先生が触れられたプロジェクトを日銀金融研究所とNTTとでやっていた頃は、実はインターネットがまだそんなにユビキタスではなかったので、スマートフォンとかを皆さん持っていらっしゃいませんでしたし、オンラインの環境のほうがむしろ特殊だったんですよ。このために、オンラインでなければ使えないとすると、世の中オンラインではないから使えないわけです。

だからオフラインでも使えるようにしようということで、かなりの苦労をして、かつ、リスクも背負ったわけですね。オフラインで使えるようにすると、ICカードの耐タンパー性を利用しなければいけない。多分今でも基本的には同じだと思います。後で事後的なチェックというのはありますけど。

そうすると、耐タンパー性というのは完璧ではないというか、より優位な技術があれば、それを破られてしまうということは当然想定しなければいけないものなので、そうだとすると、あまりに巨額のお金をその中に入れておくことはできないというのが当時の発想でした。

多分今は、そもそも全ての取引をオンラインでもオーケーかもしれない。要するにスマホを使う限りにおいては、決済ツールに関して常にオンラインになっているということを前提に取引ができるかもしれないという意味で、果たして、当時と同じような意味でオフライン、かつその耐タンパー性というところに頼る必要があるのか、それとも、環境が変わったから今は違うのであるという議論か、というところが一つの論点としてあると思います。ただ、耐タンパー性に頼り続けようとすると、多分それはリスク額の上限を抑えなければいけないということだと思います。

それからもう一つ、後で事後的なチェックという話にしたときには、どうしても、どこかのセンターがチェックをするという話になるので、こうするとプライバシーの話になりますが、これはデビッド・チャウムさんが昔やったみたいに、そういう場合でも、プライバシーを守る方法、ブラインドシグネチャーみたいな方法というのは1980年代に開発されていました。それに似たようなことは当然今でもできるわけですが、今はより進んでいるというか、そもそもビットコインというのはもともとデジタル証明書を、公開鍵証明書を使わないというか、アドレスの中にそれを入れてしまうことによって、もともとのアイデンティティーを全く隠匿したままで取引ができてしまうという、そういう方式を使っています。

これはこれで、プライバシーの問題については解決できたのですが、今度は逆にAMLの問題が出てくるという形で、いろいろ問題が重層化していますので、そこをどういうふうに考えていくかということかと思います。以上です。


【岩下発言】(3回目)

岩下でございます。私も海外の状況は大変気になるんですが、いろいろと調べていても、何が本当で何がうそかよく分からない。分散型金融の世界の議論というのは、どうも公的な機関がきちんと何か調べてまとめているものはあまりないですよね。幾つかの中央銀行のレポートは出ていますので、見ていますけど、何かこれは本当かという感じがいつもしているので、そういう意味では、より確かな情報をきちんと入れるということがこれから大事ではないかと思うんですけど、一方でそれが非常に難しい分野であるというのも分かります。事務局に準備して頂くのは大変かもしれませんけども、よろしくお願いします。

もう一つは、この事務局資料にベン図がありますよね、事務局資料の2ページですか、「いわゆるステーブル・コイン」と真ん中に書いてある、関連する最近の取組と。この構造自体は、何となくこういう分類でやられるのかと思うんですけども、これは二次元ですが、縦にもう1次元あって、先ほど何人かがおっしゃった階層構造があるんだと思うんですね。何かに基づいた上の何かに基づいた上の何かに基づいた何かと、これは無限に実は存在し得るように思いますし、実際、相当込み入った仕組みを取っているものはありますけれども、そういうものについて、そういう階層の意識をどれぐらい持つかというところが割と大事なことのような気がします。

その意味では、ベースになる部分と、それからその縦の階層の部分と、その階層をどういう理屈で支えているのかみたいな話とか、その階層の支え方とか、そういうところを言っているのは、必ずしもそれを言っている人たちの言い分は全て真に受ける必要はないと思うんですけど、何を言っているのかというのが本当によく分からないことが多々ありますし、一方でのICOに見られたような、言うだけ言ってお金だけ調達して、そのままどろん、みたいな話というのがDeFiトークンの世界でも出てきているリスクはあると思うので、そういう意味でも慎重に、かつそのような情報を収集していく必要があるかと思います。以上です。