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第2回デジタル・分散型金融研究会

2021年9月15日に開催された「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第2回)の議事録が公開されました。いつもどおり、自分の発言のところだけ、備忘録的に転載しておきます。今回は発言は一回だけです。

なお、発言の冒頭で、「実務に強い大学教授」と名乗っていますが、何かの実務に強くなければそれを論じてはいけないというルールはないので、こういう議論をするときに、その分野の実務に強いかどうかなんて本当は関係ないはずです。松尾先生と私が揃ってこういう発言をしなければならないこと自体、この分野の議論を取り巻く外部環境があまり良くないことを物語っているのかもしれません。


【岩下メンバー】
どうもありがとうございます。事務局の説明、及び今日はお二人の先生方からお話をお伺いしまして、とても興味深くお伺いしました。

京都大学の岩下でございます。松尾先生のひそみに倣いまして、私も一応、実務家の経験が三十数年ございますので、実務に強い大学教授という立場であるということをここで示しておきたいと思います。

それはそれとして、今日のお話を聞いていて、なかなかちょっと心がざわざわするものを感じました。というのは、基本的にDeFi、あるいはスマートコントラクト、それらがステーブルコインになるといったような話を聞くときに、そもそもそういうことを進めていらっしゃる人たち、あるいはそれを信じている人たちと、伝統的な金融の仕組みを信じている人たちとの間で、そもそも住んでいる世界が相当違う感じがするのですね。これは松尾先生の御指摘にもあった、マルチステークホルダーで議論しましょうというときに、非常に議論がしにくい一つの理由になるだろうと思います。例えば、スマートコントラクトによって、こういう取引が必ず行われることが保証されると言われてしまうと、伝統的な立場からは、それはいったい誰が保証しているのですかという話になります。普通は誰かが保証しなければ保証はされないですよね。だけど、暗号資産の世界では、それはみんながそのシステムを信じているからそうなることになっているという、何か神様がやっているみたいな話になっています。そんな訳ないと思っている人たちと、この仕組みは暗号資産のブロックチェーンが未来永劫続くのだとすれば、絶対に大丈夫だと思っている人たちとの間で、相当なギャップがあるということをすごく感じました。

その上でなんですけれども、今日論点に上がらなかったことについて若干触れたいと思います。例えば、スマートコントラクトの議論について言うと、スマートコントラクトが適切に組まれていなかった事例というのは実は過去にたくさんあります。有名なところですと、あれは2016年でしたか、The DAO事件というのがありましたね。あれもある意味でDeFiのさきがけみたいなものだったと思いますけれども、イーサリアムのスマートコントラクトの中で組まれたアルゴリズムに対してアタックが行われました。かなり後で、SECがThe DAOについて、未登録でパブリックオファリングしたということで証券法違反と指摘したわけですが、いずれにしても出資をした人たちのお金のうちの数十億円が盗まれてしまうというか、別の権利者に移ってしまうという事件がありました。

比較的最近ですと、今年の6月でしたか、アイロンと、それからアイロン・チタニウムという、これもやはりDeFiトークンと称するものが、これが非常な値上がりをした後で一気に価値がゼロになるというような大騒動を演じたことがあります。これはたしかステーブルコインとの交換を通じて、価値を無尽蔵につくり出すみたいなことをやったわけです。当然、経済学的に考えるとそれはあり得ないことで、そういうことに乗っちゃった人がいるのが不思議なのですが、今のDeFiの様々なプロトコルを見ると、普通にUSDでDeFiの預金をすると年利4%ですとか、何かよく分からない数字が出てくることが多いので、その意味では似たような話かなと私は思っています。

そういう意味では、決して、今の金融の大きな枠組の中でまともに動いている人たちからするとちょっと信じられない、住む世界が違う話が、一方では当然のように語られているという実態があります。

私は一応、両方の分野についてそれなりに詳しいつもりなので、両方の言っている意味が分かりますが、これはなかなか歩み寄れない話だなというふうに常々思っています。これらの世界が未来永劫続くのかというと、そこもよく分からないですが、多分、伝統的な金融のほうは比較的続きそうな感じがします。これまで数百年続いてきていますので。それに比べると、暗号資産に基づく金融のようなものは、せいぜいここ数年の話なので、本当にこれが今後も続くものとして議論してよいのかという点もちょっと心配な部分です。

そういう意味でいくと、ステーブルコインというのは既に、例えば先ほどの分類によるとDeFiによるステーブルコインということになるのでしょうが、テザーというのが7兆円ぐらい発行されていますし、それ以外にも多種多様なものが発行されているのは事実です。事務局の問題提起にある、ステーブルコインがこれから使われるかという点については、ステーブルコインと称するようなものというのは山のように発行されていると思いますが、その中で本当に価値がちゃんと維持されてきちんと使えるものというのがいかほどあるのか、万人が使えるものっていかほどあるのかというと、ちょっとそれは怪しいかなと思います。そういう意味ではリブラというのはもしかしたらそれになり得る候補だったのだけれども、使われる可能性があるからこそ警戒された。それに比べると、一般の世界とは別の世界で発行さているステーブルコインの話はまた別な話として捉えていくべきでしょう。それはそれで、その世界が続けば続くし、その世界が止まれば止まるということで、そこは別の世界というふうに上手に切り分けて、消費者保護や投資家保護を必要とするような人たちはそういう世界にできるだけ近づかないようにしていくというのが、取りあえずは正しい政策ではないかと思っています。

私からは以上です。