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金融DXについて講演します

5月26日に、DX CAMP 2023というオンラインイベントで、金融DXについて講演します。

京都大学

公共政策大学院 教授

岩下 直行

金融 DXの現状と課題 ~インボイス制度を迎える金融業界の今〜
金融業界は、長年にわたり業務のIT化に取り組んできました。現金・手形・小切手といった決済手段から、全銀ネット決済への移行が進み、インターネットバンキングの利用も拡大しています。しかし、これまでの進捗にもかかわらず、金融機関が提供する金融サービスは、法人企業のDX化にあまり役立っていないと指摘されています。今年10月からのインボイス制度の導入を前に、法人企業の経理事務のDX化の遅れを懸念する声もあります。このような状況を踏まえ、本講演では、金融業界におけるこれまでのIT化の現状と、今後のDX化の課題について整理し、今後法人企業のDX化に金融機関がどのように貢献できるかを考えていきます。

短い講演ですが、新しく作ったスライドから1枚だけ紹介します。

2022年11月に全国で手形交換所が廃止され、電子交換所が開始されました。これまで金融取引の重要な統計であった手形交換高が、それ以降はゼロとなったのですが、手形・小切手から全銀ネットへの移行は、実に60年かかって達成されたということになります(手形そのものは2026年まで残ります)。社会を支える大事な決済ツールだから慎重に移行してきたということでしょうが、ちょっと時間がかかりすぎだったように思います。

   

これに対して、私たちが日々使っているスマホ、携帯電話は、かなり早い速度で世代交代を続けてきました。2G-3G-4G-5Gと世代を重ね、最近では5年くらいで次の世代に移行していきます。古い世代のサービスはしばらく存続しますが、利用が減少すればサービスも停止します。以上は通信規格の話ですが、スマホのハードウェアはもっと短い周期で世代交代しますし、OSのバージョンアップは更に頻繁です。そのうえで提供されるアプリも、利用が減少すればすぐにサポートが打ち切られるものが多いですね。

   

この2枚のグラフを時間軸を合わせて重ね合わせてみたのが次のスライドです。金融業界は、歴史的にみるとIT化を先行して実施した業界なのですが、その割に現在DXで先行しているようには見えません。携帯電話やインターネットの業界は、金融業界とは変化の周期が全然違います。現在必要とされているDXというものは、こうした携帯電話、インターネットの世界の話です。もし金融業界がDXを進めたいというのであれば、変化のスピードを上げていかなければならない、ということがわかるでしょう。

   

私は以前からこういう現状について、「金融業界がインターネットによる社会の変化から置いてきぼりを食った」という表現で説明してきました。とはいえ、さすがにここにきて、金融業界でも変化のスピードを上げようという機運が高まってきたように思います。具体的に顧客ニーズに合わせてサービス内容を変えていくというのは、金融業界にとっては容易なことではありませんが、いくつかの変化の兆しは感じられます。この辺についての評価と見通しについて、講演でお話ししたいと思っています。