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モビリティ・ブロックチェーンの残骸

2019年に、Mobility Open Blockchain Initiative(MOBI)について一度ブログに書いたことがある。日経新聞に掲載されたMOBI創設者へのインタビューを手がかりに、「モビリティ×ブロックチェーン」という構想の可能性と限界を、やや距離を取った立場から整理した内容だった。

当時の関心は単純で、
・それは本当にブロックチェーンでなければならないのか、
・技術的な必然性とビジネス上の合理性が噛み合っているのか、
という点に尽きる。

あれから6年が経った2025年、その投稿にリンクエラーを検出したとの報告を受けてMOBIの公式サイトを確認してみたところ、トップページを含め、主要なURLがいずれも 「403 Forbidden」 を返す状態になっていた。

サイトが落ちていること自体をもって、直ちに「失敗」や「消滅」と断じるつもりはない。業界向けのB2Bコンソーシアムが、情報公開を最小化する局面に入ること自体は珍しくないからだ。ただし、ここで興味深いのは、MOBIが掲げていた思想と、現在見えている実態との落差である。

MOBIは当初、「Web3」「ブロックチェーン」「トークン」などの言葉とともに、車両がノードとなり、データや価値が自律的に循環する未来像を語っていた。

しかし6年後に残っているのは、
・公開情報の消失
・トークン経済の不在
・標準化団体としての可視性低下
という、きわめて地味な現実である。

この変化は、ブロックチェーンという技術が未熟だったからではない。むしろ、自動車産業にとって本当に必要だったのが、分散台帳ではなく、規制対応可能なデータ管理と業界内調整だった、というだけの話だろう。

信頼できる主体を置いてデータを管理し、検証し、責任を明確にする。それができるのであれば、ブロックチェーンである必然性は薄い。コンソーシアム型の「業界ブロックチェーン」は、結局のところ中央的なガバナンスを不可避的に内包する以上、パブリックブロックチェーン的な意味での「分散」や「非中央集権」とは別物である。

その意味で、2019年に感じていた違和感は、6年後もそのまま残っている。むしろ、当時よりもはっきりした形で表面化したと言った方がよいかもしれない。

「ブロックチェーン」や「Web3」という言葉を掲げ続けることで得られるものと、それによって生じる説明コストや不信感を天秤にかけたとき、後者の方が大きくなってしまったプロジェクトは少なくない。

MOBIのサイトが403を返しているという事実は、何かを雄弁に語っているようにも、あるいは単に語る必要がなくなっただけのようにも見える。

いずれにせよ、技術の名前よりも、何を解決したかったのかを振り返るには、ちょうどよい6年後の地点なのだと思う。