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ナゾと推論30 足音が肥料になる花

 日銀下関支店長 岩下直行

蘭を育て始めて6年になる。下関に転勤してくる前は、東京の自宅でカトレアやシンビジウムを中心に20鉢ほどを育てていた。一鉢ごとに温度や水やり、施肥などの記録を毎日ノートに書いて管理していたから、かなり熱心な方だったと思う。種や球根から育てる普通の草花と違い、蘭は同じ株が何年間も育ち続ける。植え込み材には土ではなく、水苔やバーク(木の皮)を使うから、室内に並べても部屋が埃っぽくならない。花の少ない冬の時期に、豪華な花を咲かせてくれるなど、室内で長く楽しめる素晴らしい植物だと思う。

一昨年、山口県に転勤を命じられた際に、この蘭の鉢をどうするかちょっと悩んだ。大きな鉢を転勤先に搬送するのは難しいし、世話をする時間も捻出できないと思ったので、家族に世話を託すことにして、蘭なしで単身赴任生活を始めた。東京の家族は管理ノートこそつけなかったものの、しっかり世話をしてくれた。今年の正月に自宅に戻った時は、カトレアが大きな花を咲かせていた。

東京に残してきた蘭が元気でいるとはいえ、やはり自分が毎日世話をできないのは寂しかった。昨年、東京に出張した時に自宅の蘭の鉢を眺めていたら、デンドロビウムという蘭に高芽がついているのを見つけた。高芽とは、本来花が咲くべき場所に生える脇芽のことで、これを削ぎ取って植え付ければ、新しい株を育てることができる。その程度ならば単身赴任先でもできると考え、高芽を下関に持って来て育てていたところ、先日ようやく一輪だけ花を咲かせた。

それ以外にも、親族からお祝いにもらったコチョウランなど新顔が増えた結果、下関側でも鉢が増えてきた。現在は小さな鉢が6鉢あり、その多くが花を咲かせている。単身赴任で設備も整っていない状況では、この程度で我慢すべきかなと考えている。

蘭の栽培で苦労するのは温度管理である。冬場、寒気にあてると調子を崩すので、日中はガラス越しの日光をあてるために窓際に置き、夕方以降は寒気を避けて部屋の奥に取り込む必要がある。今年の冬は寒かったから、帰りが遅くなる日には、窓際から取りこんでいない蘭のことが気になって仕方なかった。

蘭の栽培では、「足音が肥料になる」とよくいわれる。夏場の成長期を除けば、蘭にはあまり肥料を施す必要はないし、水やりも何日かに一度で良い。だからといって放置してはダメで、こまめに様子を見に行き、温度、日照、風通しなどに気を配る必要がある。特に何をするということではなく、きちんと足を運び様子を見るようにすれば植物が元気に育つという意味で、「足音が肥料」というらしい。蘭に限らず、育てる側は、あれこれと手を出さずに、じっくりと見守ることが大切だと思う。

(2011.4.13日 山口新聞掲載)

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