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ナゾと推論29 東日本大震災と山口県経済

 日銀下関支店長 岩下直行

あの地震から一カ月近く経った。いまだに福島原発の問題は収束せず、行方不明者も膨大な数にのぼっているが、被災地では復興に向けた努力が続けられている。被災された方々が、一刻も早く平穏な暮らしを取り戻すことを祈っている。

その一方で、東日本大震災は、経済面にも深刻な影響を与えつつある。一般に、大地震などの災害が発生した場合、人命が失われ、家財や生産設備、社会インフラに被害が生じる。しかし、被害地域が限定されていて、被害を受けなかった地域の経済が健全であれば、復興投資に向けて生産活動が活発化するので、災害後は経済成長が高まることもある。

しかし、今回の震災は事情が異なる。死亡・行方不明者の数が戦後最大であるだけでなく、被害を受けた範囲が東北、関東の太平洋側の極めて広い地域にわたり、インフラや工場設備の喪失もかつてない深刻さだ。加えて、東日本全体に、原発をめぐる様々な問題と電力不足の悪影響が及んでいる。

山口県内の企業は、工場や生産設備に一切被害を受けておらず、電力も十分にある。にもかかわらず、東日本の生産活動の低下は、幾つかのルートで山口県経済に悪い影響を及ぼす。例えば、東日本の工場が被災したり、電力不足で生産ができなくなった結果、資材や部品の調達ができず、山口県内でも自動車工場などが操業を停止する事態となった。

石油製品や化学製品のように、震災被害を受けた地域の設備が停止しているために、代替需要に対応した増産を行っている業種もある。ただし、これらの業種は元々操業度が高かったところが多く、代替生産に伴う地域経済へのプラス効果はごく限定的だ。自動車を中心とした操業停止のインパクトの方がはるかに大きい。

加えて、企業や家計のマインドの悪化がもたらす影響も心配だ。3月11日以降、日本各地で小売、飲食、観光などの個人消費の落ち込みが深刻だと報じられている。山口県でも観光旅館や宴会場はキャンセルが相次いでいる。スーパーでは飲料水や防災関連商品などが一時品不足になるほど売れたが、一方で贅沢消費は手控えられ、百貨店の売り上げは落ち込んだ。設備投資、住宅投資などの落ち込みも懸念される。

東日本が未曾有の震災から立ち直り、復興を遂げるためにも、被害を受けていない西日本の経済がしっかりしていることがとても大事だ。現在、資材や部品の調達ができなくなった企業は、必死で代替の調達ルートを探している。それ以外の企業も、今後の経済の減速に備えて、新しい需要先の開拓など、様々な創意工夫で生き残りを図っている。

それでは、一般の消費者はどうすればよいだろうか。被災地のことを考えれば、宴会や行楽を楽しむ気分にならないのも事実だが、皆がいっせいに「自粛」をしてしまうと、地域経済に与えるダメージが大きい。可能な範囲で、これまでどおりの消費を行った方が、経済が過度に収縮してしまうことを避けられるのではないだろうか。

(2011.4.6日 山口新聞掲載)

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