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日銀マンのIT企業見聞録5 個人番号の民間利用

日立に出向した筆者の主たる仕事は、「社会保障・税に関わる番号制度」について検討することだ。もちろん、制度を構築したり運営したりするのは政府の仕事だが、制度の実現にはITが必要不可欠である。将来、番号制度が導入された際に、IT企業としてどのようなサービスを提供していくべきかを考えるのが、与えられた任務である。

グリーンカードの昔から、番号制度は国論を二分してきた。厳しい国家財政の現状を考えれば、納税者を正確に識別して、所得を正確かつ効率的に捕捉し、公平な負担を実現することは必要である。社会保障を本当に必要としている者に給付しようとすれば、やはり対象者を正確に識別する必要がある。こうした目的のために番号制度を導入すべきとの主張は、まっとうなものだ。

とはいえ、個人のプライバシーを保護することも大切だ。たとえば、米国では、社会保障番号が広く普及し、所得の捕捉に活用されているのだが、同じ番号が民間事業者による本人確認用IDとしても広く使われてきた。その結果、IDが盗用されて他人になりすまされ、経済的な被害が生じる事件が多発した。番号の目的外利用によるプライバシー侵害も無視できない。IT社会が発展するほど、こうした被害は深刻化する。このため、米国政府は、インターネットで利用可能な新しい本人確認手段の導入を迫られている。

わが国における番号制度の検討では、こうした問題を未然に回避するため、個人番号の用途を政府に提出する特定の書類への記載に限定することにした。金融機関の場合、税務署等に提出する書類に記載する必要があれば、顧客から個人番号の提供を求めることができるが、それ以外の目的では入手できないし、正当な理由なくデータベースに保存しておくことも許されない。違反者には重い罰則が課せられる。こうした内容の法案が、国会で審議されている。

こうした制約については、「民間利用を阻害する」という指摘も多い。確かに、個人番号は政府が発行し、悉皆性・唯一無二性といった優れたIDとしての特徴をもつ。しかし、かりに制約をはずし、多くの事業者が個人番号を自らのシステムにおける個人の特定に利用するようになると、他人に悪用された場合の被害が深刻化し、漏洩防止や違反の取締りのための社会的コストも増大する。あえて民間利用を禁止するのは、そうした被害やコストが発生することを未然に防止するためだ。

つまり、番号制度の設計も、利便性・効率性と安全性とのトレードオフの問題なのである。だとすれば、将来的な制度改正を展望したとしても、民間事業者が自由に個人番号を取り扱うようになるとは考えにくい。個人番号を利用する効果がとくに大きい分野に限って、信頼できる担い手が、十分に安全対策を講じつつ利用するというのが、民間利用の前提になるのではないか。

(週刊金融財政事情2012.3.26号掲載)

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