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日銀マンのIT企業見聞録6 IT企業の新事業開発

今回から、筆者の日立における肩書きが変更となった。出向中の人事異動というのもめずらしいが、配属された部署が再編され、新事業開発を担当する同僚とともに、今年4月1日新設の「スマート情報システム統括本部ビジネスイノベーション本部」に移ることになったのだ。新事業開発といっても、特別なプロジェクトのことではない。たとえば、先週の本連載で紹介した番号制度に関する検討も、新事業開発の一環として筆者が担当している業務である。


金融業界の人間からみると、この新事業開発という言葉には、いまひとつピンとこない部分がある。金融機関は業法によりその事業内容を細かく規定され、他業が制限されているから、新たに事業を起こすといってもおのずと限界がある。大きな制度改革でもない限り、既存の業務内容からさほど遠くない分野で、ちょっとだけ外延を拡大する「新事業」がほとんどだ。

これに対して、IT企業にとっては、新事業開発そのものが本業といっても過言ではない。IT企業が販売している製品やサービスは、めまぐるしく変化する。同じ製品やサービスを売り続けているだけでは、価格が下落して売上げが減少してしまう。IT企業が成長を続けていくためには、常に新しい事業を興していくしかないのである。

とはいうものの、スティーブ・ジョブズのように派手な新製品開発をするわけではない。金融業界にも、顧客同士を結びつけるビジネス・マッチングというサービスがあるが、それを社内で実践するようなものだ。社会環境の変化により、顧客ニーズは常に移り変わっている。その変化をすばやくとらえ、日立の有するさまざまな製品とサービスのラインアップから新しいニーズに応えるものを選び出し、時には新たに創り出して、タイムリーに提案していく業務である。制度改革や市場動向を機敏に察知することが、新たなビジネスにつながるのである。

新事業開発は、新しいビジネスを構想立案し、それを実現するまで引っ張っていける人材が不可欠である。日立では2001年から、そうした人材を育成するための専用の研修を開催しており、今年で18期目になる。各事業部から課長クラスを事業部長推薦で集め、十数人の研修生が隔週末に泊り込みの合宿を9カ月続けるのだ。筆者は、昨年秋から、その研修の成果発表会に講師として参加しているが、新事業開発を担う「駆け出し担当本部長」として、研修生以上に、こちらが勉強をさせてもらっているように思う。

筆者が出向先で関与しているのは、いずも足の長い案件ばかりだから、出向期間内に刈り取ることむずかしいだろう。とはいえ、自分の構想がいずれビジネスとして実現する姿を思い描ながら、新事業開発に取り組むというのは、得がたい経験だと思っている。

(週刊金融財政事情2012.4.2号掲載)

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