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日銀マンのIT企業見聞録9 多様な人材が作り出す力

筆者が日立に出向してきたのは昨年7月なので、今月で10カ月目になる。まだ予定期間の半分にも達していないが、日銀では経験できない仕事を担当させてもらい、ずいぶん視野を広げることができたと思う。

なにより、出向先の多様な人々と出会い、交流することができたのは貴重な経験であった。出向先でのプロジェクトの打合せや調査報告会では、複数の事業部や研究所、そこに協力するコンサル企業などのスタッフが集合して議論を繰り広げる。幅広い業務範囲をもつ企業ならではの、バラエティに富んだ職務経験と専門知識をもつ人材が集う場だ。金融機関とは異なり、IT企業ではローテーション的な人事異動はあまりない。各々の専門分野に没頭し、修羅場をくぐり抜けることによって、深い知識と経験を誇る、頼りになる人材が育成されるのだ。

日立グループは国内外で30万人を超える社員を擁しているので、長く在籍している人でも顔見知りは社員のごく一部である。このため、社内会議であっても、初対面の社員同士が名刺交換をする。この慣習は、新参者である筆者にはとてもありがたいものだった。筆者が出向後に交換させていただいた名刺数百枚の実に半分が社内のものである。

金融業界においても、社内に掲示板やSNSを導入し、社員からの自由な書き込みによって情報共有を図ろうとする試みはあるのだが、実際に機能させるのは簡単ではないようだ。書き込みをする人が限られてしまったり、討論が活発にならなかったりすることも多いという。

この点、大勢の多様な社員を擁する日立の社内SNSでは、膨大な量の発言が常に流れている。普段交わされている会話の半分以上は雑談の類だが、それによってコミュニティが維持されることで、仕事上の連絡もスムーズになる。そして、ひとたびシステム技術的な話題になると、即座に詳細な解説や問題解決の提案が返ってくる。その議論の奥の深さに驚かされることも多い。

筆者に残された出向期間は長くはないが、一人でも多くの同僚と、より密接に交流していきたい。金融業界が思い描くべき未来の情報システムは、彼らのなかにこそあると思うからである。

(週刊金融財政事情2012.4.23号掲載)

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