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STOトークンとADRの違い

coinschedule.comの統計を見る限り、世界的なICOブームはやっと沈静化しつつあるようです。しかし最近、それに代わって米国発のSTOが色々と出てきました。このSTOもまた、しっかりとした市場規律を維持するメカニズムを持っていないので、いずれ問題が顕現化すると私は思います。現在は、適格投資家に限られるとはいえ、最終的には誰かに高値掴みをさせようというプロジェクトにしか見えないからです。

マルタを根拠地とするSTOプラットフォームに関するこんな解説記事が出ていました。

STOプラットフォームを構想する「ABE GLOBAL」の決め手は各国規制下でのアービトラージ?

この記事の中で、次のような説明がなされています。

マルタに上場をした会社のトークンは、depositary receipts (DR)という形式で、他国の規制下で購入できるようにします。American Depositary Receipts(ADR)は、異なる証券取引所間で同じ株式を購入できる仕組みで、日本語では米国預託証券という名称で知られています。ADRの仕組みを簡単に述べるなら、米国以外の国で設立された企業が発行した株式を裏づけとして米国で発行される有価証券となります。..ABE GLOBALでは、マルタに上場をしたトークンを、他国にある子会社を通じて、ADRとして販売をします。

STOのトークンは、ADR(American Depositary Receipt)ではありません。ADRと呼ばれる金融商品は、米国の預託銀行によって発行され、米国内の証券取引所に上場される証券のことを指します。似たようなものを勝手に作って、ADRと名乗ることはできません。その意味で、「ADRとして販売をします」というこの解説は、正確なものではありません。

日本や欧州にも、JDR、GDRと呼ばれる預託証券の仕組みがあり、それらは各国の証券法で規制されています。もし、日本の投資家が米国のADRに投資したいのであれば、日本の証券会社を通じて正規のADRを購入することができます。

この記事で紹介されているマルタのSTOのトークンは、信用を担保する仕組みも、開示規制の取締りを行う主体も不明確な、リスクの高い投資対象です。投資家保護を目的とした証券法制に基づく既存の仕組みがあるのに、詐欺や資金洗浄に利用されかねない危ない投資手法を持ち上げる人がいるのが、不思議でなりません。

手数料とか利便性とかをメリットに挙げる人がいますが、元本を失うリスクを負ってまで、若干の手数料を節約するという発想は、普通の金融取引にはありません。それって、暗号資産で貨幣を代替しようという発想と少し似ていますね。金融取引におけるコンプライアンスの維持やシステム可用性の維持には、一定のコストが掛かるものです。それが掛からないで済む、ADRと似たような投資対象があったとしても、潜在するリスクを考えれば、多額の投資を行うには不適切なものだと考えるのが、金融取引の常識だと思います。