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新型コロナウイルス感染症対策専門家会議資料の読み方

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月1日)を公表した。

これについて、マスコミ各紙が解説している。例えば、朝日新聞のこの記事は図表も豊富で読みやすい。

さて、この専門家会議資料の中では。全国及び東京都の推定新規感染者数から、実効再生産数(Rt)を推定しているのだが、1を下回れば感染拡大しないというRtが、3月下旬から4月初にかけて急速に低下しているのが印象的である(以下では、東京都の数字に絞って検討するが、全国でもほぼ同様の傾向である)。

専門家会議資料(2020年5月1日)より引用

上掲の朝日新聞記事にも掲載されているこの図表だが、ちょっと読み方が難しい。というのは、東京都の感染者数の統計として我々が知っているのは、日々公表されるこの「確定日ベース」のグラフだからだ。毎日、今日は何人だったとニュースで流れる数字である。

東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより引用

また、実効再生産数にしても、有志が公表統計を基に都道府県別で試算しているサイトがあり、そこでは東京都のRtはそこまで下がっていない。

https://rt-live-japan.com より引用

これらの差はどこにあるかというと、我々が目にしている統計は「確定日ベース」の数字である一方、専門家会議が利用しているのは「発症日ベース」の数字だからだ。両者はこのように違う。

専門家会議資料(2020年5月1日)より引用

我々が毎日のニュースで一喜一憂しているのは、左側のグラフである。都道府県が発表するのは、PCR検査で陽性になった人数を、確定した日に公表する。とはいえ、公表された数字が分析に適しているとは限らない。感染者個々人にヒアリングをしたり、集団感染事例を分析したりすれば、確定日とは別に、一人一人の発症日を推定することができる。その推計値が、図の右側のグラフである。

更に、専門家会議資料では、この発症日から潜伏期間を考慮して、感染日を推定している。最初に掲げた図で、Rt推定のベースとなっている黄色の棒グラフは「推定(新規)感染者数」であり、そのピークは3月末である。

専門家会議資料のRtの推定値のグラフの脚注には、このような長い説明が書いてある。それを丁寧に読めば、色々な情報が得られるが、報道では詳しく流れることはない。わかりやすいグラフのみを前面に解説することが多いようだ。

※ 横軸は推定感染時刻.黄色が推定感染者数、青が実効再生産数(青い影が 95%信頼区間)である。実効再生産数の推定においては右側打ち切りを考慮した推定を実施しているが、潜伏期間と発病から報告までの遅れのため、直近 20 日間は推定感染者数と実効再生産数を過小評価する可能性があるため、データを省略している。不顕性感染者を除く。

よくみれば、専門家会議資料のRtの推定は、4月上旬で打ち切りになっている。4月7日以降の緊急事態宣言以降の新規感染者数がどうなったかは、実は公表された数字だけでは、まだ分からない。我々が日々目にしている確定日ベースの感染者数は、およそ半月前に感染があったかどうかに左右される。こうした統計に生じるタイムラグは、経済統計では当たり前に起こることだが、これだけ注目されている医療統計でも無視できないもののようである。

世界中で感染対策のロックアウトを緩和し、経済活動を再開しようとする動きが出ている。わが国でも、経済的なダメージは深刻で、どのタイミングで緊急事態宣言を終了し、経済を再起動するかが課題になるだろう。経済再生に前のめりで再び感染爆発を招いたら元も子もないが、感染の鎮静化を確認するには時間がかかるとすると、それをジッと待っているのも得策ではないだろう。政策判断のためには、実勢を慎重に読み取ったうえで、変化を先読みしたpre-emptiveな対応が求められるだろう。