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全銀システムは未来志向で検討を

全銀システムが復旧して、とりあえずは良かったと思う。このプロセスで多くの振込不良が発生し、各銀行はそのトラブルシューティングに忙殺された。窓口やコールセンターでクレーム対応にあたった人は大変だっただろうし、もちろんシステムの復旧のために対応した職員や開発委託先も不眠不休で取り組んだはずだ。とりあえず、復旧によって一息つくことはできる。

今回、ハードウェアの更新というトラブルが発生しやすい作業を行ったにもかかわらず、トラブル発生時に迅速にフォールバックが行えなかったのは何故だったかを検証する必要があるだろう。システムにバグや障害はつきものだから、現場で運用にあたる人の判断が被害がどう拡大するかを決することになる。情報システムの運用というのはうまくいって当たり前で、トラブル時に責められるだけという損な立場だが、だからこそ適切な判断ができる体制を普段から組んでおくことが必要である。

そして、もっと長期的な視点として、全銀システムの開発、運用に掛かる体制をどう見直していくかも考えていく必要がある。普段、問題なく動いている限りは、「これまでうまくいっていたのだから、これからもうまくいくだろう」と安易に考えてしまいがちだ。しかし、50年間、大きなコンセプトを変えずに維持更新されてきた情報システムというのはそもそも珍しい。多くの情報システムは、マイクロエレクトロニクスの進化、具体的にはPCやインターネット、スマホの登場で、基本コンセプトからの見直しを迫られてきた。1960年代に、旧電電公社の研究所と地方銀行協会が協力して築いた地銀データ通信システムを源流とする全銀システムは、立派な歴史的使命を果たしたけれど、未来永劫そのままのスタイルを維持していくことは無理だろう。ここ10年ほどの間に、世界全体で決済システムの世代交代が進んでいる。24時間365日、安全確実に決済ができるだけでなく、現代の情報技術を普通に利用する持続可能な決済システムが導入されるようになっているのだ。全銀システムは、モアタイムシステムを付加したり、ZEDIに取り組むなど、外形的には世界的なサービス水準を実現しようと努力しているけれど、古いシステムへのつぎはぎの構造なので、長期的にみると持続可能性に問題を抱えている。

今回の障害を受けて、私も多くのメディアからの取材を受けた。読売、朝日、産経日刊工業の各紙にコメントを掲載していただいたけれど、紙面の制限もあって「厳しいコメントをする識者」が文句を言っているだけのような内容になってしまった。取材の際には、本年3月に公表された「次期全銀システム基本方針」や、日銀が世界各国の決済システムの進化を整理した「グローバルな 24/7 即時送金導入の潮流」などを引きつつ、全銀システムの問題点を指摘したのだけれど、この分野はあまり基本情報が共有されていないので、正確に理解してもらうのは難しかったかもしれない。

全銀システムの障害を巡っては、中継コンピュータ(RC)を使っていることや、開発言語がCOBOLであることなど、分かりやすい「全銀システムの古さ」がSNSで俎上に上ったけれど、それらを指摘するだけでは、現状が最善だと信じる人々を説得することはできないだろう。我が国経済の根幹を支える決済システムである全銀システムをどう見直していくべきか、あるいは、別の決済システムを構築してバックアップ可能な構造にするのか、今回の障害事故を踏まえて、関係者が未来志向で考えていくべきだろう。