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銀行送金の伝統は誰のためか

私が「銀行に支店は必要か」というブログを書いてから、もう4年が経過した。未だに、銀行振込の際には古風な書式の申請書に銀行名、支店、口座種別、口座番号、口座名義を書かなければならない。状況次第でそういう情報が必要なこともあるだろうが、キャッシュレス決済が普及し、少額の振込なら様々なオプションが可能になってきている現状において、この古風な振込のスタイルをいつまで維持しなければならないのだろうか。

最近起きた全銀ネットのトラブルを受けて、コトラ送金などの代替手段が注目されていると聞くが、私の周囲では、それが実際に使われているのを見たことがない。古き良き伝統を維持しようとすることは一般には良いことなのだが、お金にまつわる伝統が代替わりするには随分と時間が必要なようだ。

そうこうするうちに、世界的にはインターネットを活用した新しい金融が拡大し、先進国のみならず、新興国や途上国でも人々が電子決済を使いこなすようになってきた。例えば、インドのUnified Payments Interface(UPI) は2016年に開始されたサービスだが、24時間365日無料で利用できることもあって取引量は急増しており、2022年の年間取引件数は740億件を超えた。これは、日本の全銀システムの約50倍に当たる。

歴史的にみれば、日本の全銀システムは銀行を全国規模で接続する電子決済システムとしては世界初で、かつては「世界に冠たる全銀システム」などと呼ばれていた。しかし、今ではそのサービス自体は世界的にみて特に珍しくもないものとなっている。むしろ、送金の手軽さ、利便性、コスト、国際対応などでは、新興国のサービスの方が勝っているから、中長期的にみると、世界的な標準に揃える形で日本の決済システムが変質していくことは避けられないように思う。にもかかわらず、日本の銀行業界は「伝統的な」金融ITを維持しようとしているようだ。それはいったい誰のための伝統なのだろうか。