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ナゾと推論15 企業の景気と個人の景気

 日銀下関支店長 岩下直行

山口県経済は、2009年にリーマンショックによる大きな落ち込みを経験した。2010年は、そこからの回復を遂げた一年だった。例えば、山口県の鉱工業生産統計をみると、2009年は約13%減少したが、2010年は、1~10月で8%増加している。完全に戻り切ったわけではないが、今年が「大きな落ち込みから回復した年」であったことは事実だ。しかし、テレビで街角でのインタビューを聞いていると、景気の低迷を訴える声が目立つ。

日銀が景気分析をするときには、通常、企業にヒアリングやアンケート調査をしたり、企業行動の統計を利用したりする。つまり、日銀は「企業の景気」を分析している。これに対し、街頭インタビューで一般の人々が話す景気、つまり、「個人の景気」は、「企業の景気」とは若干異なる動きをする。それでは、今年の「企業の景気」の回復が、「個人の景気」にまで行きわたらないのはなぜだろうか。

リーマンショックは、主として企業の景気にダメージを与えた。しかし、企業は政府と協力して雇用を守った。企業部門は大きく収益を減らし、赤字の会社も続出した。政府は雇用調整助成金を支給し、税収も減った。残念ながら、一部の非正規労働者の雇用は継続されなかったが、企業と政府の負担によって大部分の雇用者は守られた。実際、リーマンショックの前後で、山口県内の常用雇用者数はほとんど落ちていない。確かにボーナスと時間外手当は減ったが、定例給与は大幅には減っていない。

もうひとつ、金融業の貢献も忘れてはならない。どんなに企業が雇用を守ろうとしても、倒産してしまったのではそれは果たせない。リーマンショック以降、金融機関は企業の資金繰りなどについて極めて協力的な対応を続けた。この結果、これだけ不況といわれながら、2010年の山口県内の企業倒産件数は、過去20年間で最低のレベルとなっている。

2009年に企業が内部留保を削って雇用を維持した分、2010年に経済が若干回復した際は、内部留保を復元する必要があった。このため、回復分を従業員の処遇改善に充てることはできなかった。つまり、「企業の景気」は2009年に大きく落ち込み、2010年にはそれをかなり戻したのだが、「個人の景気」は2009年に企業ほどは落ち込んでおらず、2010年の回復もわずかだった。これが今年、両者の乖離(かいり)を生んだ原因と考えられる。

では、今後、個人の景気は回復するのだろうか。結局、それは「企業の景気」が回復する規模と長さに依存する。来年、2011年の山口県経済が、より本格的な回復を遂げ、企業の景気と個人の景気がともに目に見えて改善することを期待したい。

(2010.12.29日 山口新聞掲載)

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