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ナゾと推論37 犬が道案内をする島

 日銀下関支店長 岩下直行

先週末、下関に遊びに来た妻と一緒に、下関の西の海に浮かぶ六連島(むつれじま)を初めて訪れた。六連島は特に名高い観光地というわけではないが、下関駅近くの桟橋から渡船に乗って約20分で着く、潮風が気持ち良い小さな島だ。100人余りが住み、花卉(かき)園芸や漁業を営んでいる。

船の時刻表を調べて、2時間半ほど島に滞在することとし、波止場から時計回りに島を歩いて一周した。溶岩台地でできた島は急な坂道が多く、ちょっとした山歩きとなった。

その犬と出会ったのは、島の中央の小高い丘の近くだった。雑種の大きな犬で、全身が白い毛で覆われ、少しだけ茶色がかった耳はダブダブに垂れ下っている。首輪はしているが、つながれてはいない。不意に現れた犬は私たちの行く手をさえぎり、低いうなり声をあげた。私はちょっと身構えたが、妻は明るく犬に声をかけた。すると、犬は長い尻尾を立てて親しげに近づいてきた。

思いのほかに人なつこい犬であったことに安心して再び歩きだすと、犬はこちらの予定を知っているかのように先を進み始めた。ガーベラが満開の大きな栽培ハウスや、国の天然記念物の珍しい岩などをながめ、次に進もうとすると、犬は少し先の曲がり角でこちらをうかがいながら待っている。その様子はまるで転校生に声をかけるかどうか悩んでいる小学生のようで、ほほえましかった。そのままつかず離れずで、波止場の近くまで来た。結局、犬に道案内されて島を半周してしまったのだ。やがて犬は波止場の方向に消えた。

波止場近くには、明治4年に建造された六連島灯台がある。灯台は傾斜の急な長い階段の先に置かれている。私は妻と、「不思議な犬だったね」と話しながらその階段を登っていたが、ふと気づいて振り返ると、あの犬が器用に階段を登ってくるではないか。犬はあぜんとする私たちを追い越して灯台の前に先着すると、そこで悠然とあくびをした。案内役として、名所である灯台にも先回りしておきたかったのかもしれない。

何か道案内のお礼をあげたいと思ったが、あいにくお弁当など持っていなかった。おやつ用に持参していたどら焼きをちぎって渡してみたが、見向きもしない。「モノが欲しくて付き合ったわけじゃないよ」と言われたような気がした。

六連島には、ほかにも犬が放し飼いされており、島民にかわいがられているらしい。色の黒い若い犬は、下関駅近くで捨てられていた子犬が拾われて来たものと聞いたが、あの白い犬はどこから来たのだろうか。島内の史跡や名所はあらかた見て回ってしまったけれど、道案内をしてくれたあの白い犬に会いに、またこの島を訪れてみたいと思った。

(2011.6.8日 山口新聞掲載)

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